かぎ針編みをある程度練習していくと、「もう少し表情のある編み地にしたい」と感じる瞬間がやってくる。そのとき真っ先に試してほしいのが、細編みと長編みを交互に組み合わせる編み方だ。シンプルな技法でありながら、出来上がった編み地には驚くほどのリズム感と立体感が生まれる。初心者を卒業したばかりの人にも、ブランクのあるベテランにも、この手法は何度でも新鮮な発見をもたらしてくれる。
細編みと長編み - それぞれの基本をおさらいする
まず出発点として、2つの編み方の性質をきちんと把握しておくことが大切だ。長編みは、細編みのおよそ3倍の高さが1段で編める、便利な編み方であり、細編みの高さを1とすると、長編みは3という比率になる。この高さの差が、交互に編んだときの独特な凹凸感を生み出す根本的な理由だ。
細編み(こま編み)は、針から2個めのくさりの裏山を拾い、針に糸をかけて引き出したあと、もう一度糸をかけて2目引き抜くことで1目が完成する。立ち上がりのくさり編みは1目であり、細編みではその立ち上がりを目数に数えないという点が重要なルールだ。一方、長編みは細編みの3倍の高さがあるため、立ち上がりも鎖編みを3目編む。この立ち上がりは長編み1目として数えるので、細編みとは扱いが異なることに注意したい。混乱しやすい部分だが、ここを押さえておくと編み図が格段に読みやすくなる。
細編みと長編みを交互に編むと何が起きるか
細編みの引き締まった編み地と、長編みのふんわりとした編み地を交互に配置することで、立体感や動きのあるデザインが可能になる。これは単純な模様の話ではない。編み地全体のテクスチャーが変化し、光の反射の仕方まで変わってくる。触り心地も、一方だけで編んだ場合とは明らかに異なる。
細編みは編み目がぎゅっと細かく詰まっていてしっかりした仕上がりになる一方、長編みは細編みに比べると少し隙間があり、編み地も柔らかく、細編みの半分程度の時間で編むことができる。この2つの性格が交差することで、隙間と密度のコントラストが生まれ、それ自体がひとつの模様になる。意図的に組み合わせることで、まったく新しい編み地の表情を作り出せるわけだ。

代表的な交互パターン - 松編みとよね編み
細編みと長編みを交互に使う模様編みのなかで、とくに有名なのが「松編み」と「よね編み」だ。どちらも初心者が手を出しやすく、それでいて仕上がりに個性が出る。
松編みは、長編みとこま編みを交互に繰り返しながら編んでいく模様編みで、前段の1目に長編みを5目編み入れて、次にこま編み1目を編むことで、松のような模様の編み地が仕上がる。「シンプルな手順なのに、こんな模様が出るのか」と初めて編んだとき思わず声が出る人も多い。扇形に広がった長編みの束が並ぶ様子は、確かに松の葉を連想させる。
よね編みは、こま編みとくさり編みを1目ずつ交互に編んでいく模様編みで、こま編みの編み地よりも少し薄手で、やんわりとした雰囲気が出る。こちらは長編みは使わないが、細編みとくさり編みを交互に使うことで空間に軽さが生まれ、スヌードやショールのような布ものにぴったりだ。
さらに応用的なものとして方眼編みがある。長編み1目とくさり編み2目を交互に繰り返す「くさり2目の方眼編み」と、長編み1目とくさり1目を交互に繰り返す「くさり1目の方眼編み」という2種類がある。格子状のすっきりした見た目は、バッグからドイリーまで幅広く応用でき、慣れると非常に汎用性が高い。
段の変わり目が最大の難関 - 正しい処理の仕方
細編みと長編みを交互に使う編み方で、多くの人がつまずくのが段の変わり目の処理だ。ここをきちんと理解できれば、一気に編みやすくなる。
細編みで終わったら、次の段は細編みから始まる。くさり編みで終わったら、次の段はくさり編みで始まる。この原則は、筒状に編むときも往復編みのときも変わらない。シンプルなルールだが、夢中になって編んでいると忘れがちになるので、要所でチェックする習慣をつけると良い。
新たに段を編み重ねる時、最初に編む立ち上がりのくさり編み1目は、他のくさり編みと役割が違う。始まりと終わりの編み方に関係なく、段が変わる時の立ち上がりのくさり編み1目は必ず編む。これを省いてしまうと、段の高さがそろわず編み地が歪んでしまう。特に初心者はここを飛ばしやすいので注意したい。
引き抜き編みのミスも頻発するポイントだ。引き抜き編みが細編みに変わってしまうと、どこが段の変わり目なのか分からなくなってしまい、編み地が平らに編み重ねられなくなる。針を入れる前に「引き抜きか、細編みか」を一呼吸置いて確認する。その小さな確認作業が、美しい仕上がりへの近道だ。
目を拾う場所が模様を決める
細編みと長編みの交互編みでは、「どの目を拾うか」が仕上がりに直結する。奇数段は細編みとくさり編みの繰り返し、偶数段はくさり編みと細編みの繰り返しとなり、互い違いになった時に上の段の細編みは下の段のくさり編みをそっくり拾う。この「互い違い」のリズムこそが、交互編みの核心部分だ。
目を拾う場所に迷ったとき、編み地に広く空いた穴が2つ並ぶことがあるが、その場合は右側を拾うのが正解だ。慣れないうちは間違えやすいが、これも何度か繰り返すうちに手が覚えてくれる。
また、段の変わり目で目を見失わないための工夫として、立ち上がりの3目めにマーカーを付けておくのがオススメだ。100円ショップで売っているような目数マーカーでも十分機能するし、なければ端切れの糸を輪にして代用することもできる。こうした小さな準備が、長い作品を編み通す自信につながる。
立ち上がりと高さのズレを防ぐコツ
細編みから長編みへ、あるいは長編みから細編みへと段ごとに切り替える場合、立ち上がりの目数が変わることを忘れてはならない。長編みでは立ち上がりの鎖目が2〜3目と多くなるため、しっかりと高さを合わせることが重要で、立ち上がりが甘かったりテンションが不均一になると、段の境目がガタついたり全体が斜めに傾きやすくなる。
テンションの管理も見逃せない。また、立ち上がりを1目として数えるかどうかをパターンに応じて統一することも、綺麗な仕上がりのために重要だ。細編みは立ち上がりを目数に含めず、長編みは含める。この違いを段ごとに意識しながら編むことが、整った編み地への第一歩になる。
長編みを編む際の糸の引き出し方も重要だ。長編みを編むときは、はじめに糸を引き出すときにしっかりと高さを出すことがポイントで、十分に糸を引き出しておらず、かぎ針にかかったループが短いと、目がぎゅっと詰まってしまい、長編み本来の高さが出せない。細編みの段と長編みの段を交互に重ねていくとき、この高さが揃っているかどうかで、仕上がりの均整がまるで変わってくる。
筒状に編む場合の注意点
スヌードやハンドウォーマーのように、輪に編む(筒状に編む)ときは追加の注意が必要だ。かぎ針で筒状の編み地を作ると、斜め右上方向に歪んでしまうことがある。これは細編みの性質上、どうしても生じやすい斜行だ。
この斜行を防ぐ方法として、細編みをするときに左上方向に引っ張るようにして編むという技法がある。少し意識をして編み方を変えるだけで、仕上がりが大幅に改善される。細編みと長編みを段ごとに切り替える場合でも、細編みの段ではこの意識を保つようにしたい。
応用作品 - どんなものに向いているか
細編みと長編みを交互に使う編み方は、幅広いアイテムに対応できる。用途に応じた使い分けのポイントを整理しておこう。
細編みは密度がしっかりしていて編み地も固めで丈夫なので、バッグなど中に物を入れて使うものや、あみぐるみなどに適している。一方、長編みは細編みよりも高さがあり、軽やかで柔らかい仕上がりになり、布のような質感が必要な作品に向いており、特にショールやカーディガン、ブランケットなどに適している。
この2つの性質を段ごとに交互に組み合わせることで、バッグ本体のようにしっかりしながらも持ち心地の軽い作品が生まれたり、マフラーのように少しだけ密度のある温かみのある布地が出来たりする。どちらか一方の編み方だけでは出せない、絶妙なバランスを引き出せるのが交互編みの真骨頂だ。
交互編みを上手にするための7つのポイント
ここで、これまでの内容をもとに実践的なコツをまとめておく。
- 細編みの立ち上がりは1目、長編みは3目と明確に区別する。
- 段が変わるたびに立ち上がりを必ず編む習慣をつける。
- 引き抜き編みと細編みを混同しないよう、針を入れる前に一度確認する。
- 目数マーカーを活用して、段の始まりと終わりを明示する。
- 長編みの糸を引き出すとき、しっかりと高さを出すことを意識する。
- テンションを均一に保つため、こまめに編み地をフラットな面で確認する。
- 奇数段と偶数段で目を拾う位置が変わることを忘れず、互い違いのリズムを守る。
細編みと長編みを交互に編む魅力をもっと深く
かぎ針編みの世界は、基本の3つ - 鎖編み、細編み、長編み - をしっかり習得するだけで、実は非常に多彩な表現が可能になる。この3つの編み方だけでもさまざまなものが作れるようになる。交互に組み合わせるというアイデアは、その証明のひとつでもある。
細編みだけで編んでいるのに、交互に拾う段を変えるだけでいつもとは少し違う模様ができあがる。これは細編みだけを使ったバリエーションの話だが、長編みを加えることでその変化幅はさらに大きくなる。ちょっとした工夫が、手元の糸を全く別のテクスチャーに変えてしまう。それが編み物の面白さだ。
試したことがなければ、まずは小さなスワッチ(試し編み)から始めてみよう。10目ほどの作り目を作り、細編みの段と長編みの段を交互に3〜4段ずつ重ねるだけでいい。手を動かしながら、高さの変化を目で確かめ、指先で触って確認する。そのひとときの積み重ねが、やがて自分だけの作品を生み出す力になる。